本番で力を発揮するのも実力――。スポーツにはこうした格言もあるが、「小学生の甲子園」に重ねるのは時期尚早かもしれない。準々決勝までは複数会場で同時進行とあって、全50試合をつぶさに取材できたわけでないが、公式記録も網羅しつつ、15の「金の卵」たちを学童野球メディアがピックアップ。第1弾の「二刀流」と合わせて20戦士の紹介となるが、前途有望な俊英はまだまだいたことも付記しておきたい。
(写真=福地和男)
(文=大久保克哉)
―Golden egg❶―
2発目ソロで8打席連続H
かねはら・じょう金原 跳
[岩手・洋野ベースボールクラブ]6年/右投左打/三塁手
写真提供/洋野ベースボールクラブ
今大会の2発を含めて通算45本塁打。156㎝48㎏の「東北の未来モンスター」が、右へ左へ中央へと打ちまくった。
「3年前(当時、控え二塁手)も岩手で優勝したんですけど、全国大会はコロナ禍で中止になってしまって。その先輩たちの分もみんなでがんばりました」
2回戦で何と5打数5安打、それも本塁打1本に二塁打3本と、あわやサイクルヒットだった。続く3回戦でチームは敗れたが、神宮のライトへ先頭打者アーチ(上写真)。
その一発で、1回戦の第2打席(遊撃内野安打)から8打席連続安打。過去の自己最多6連続も超えると、第2打席は申告敬遠で9打席連続出塁に。第3打席の内野ゴロで「連続記録」は終わるも、最終第4打席は中前打でトータル11打数9安打の打率8割超という、とんでもない数字を残した。
それらは果たして、大会新記録なのか否か――40年超の伝統と由緒のある夢舞台で、こういう記録面のアプローチができないのは残念。ともあれ、2つ上の兄と父との自主練習も欠かさないという金原跳は、中学でも高校でもジャンプアップしていくことだろう。地元の岩手から巣立っている、偉大な現役のスターたちの背中を追うように。
「打球の飛距離より、速さが自分の持ち味です。大谷翔平選手(エンゼルス)のようなすごいバッターになりたいです」
―Golden egg❷―
「オール5」の万能プレーヤー
みやもと・かずき宮本一希
[大阪・新家スターズ]6年/右投右打/捕手
初優勝の大功労者は通知表で言えば「オール5」。昨今、珍しくなってきた万能タイプとして突き抜けた存在だった。
打つときも投げるときも低めの重心で、大地の反力も十二分に活かせているように見受けられた。鉄砲肩ではないものの、捕球から送球までの動作にムダがなく、球の握り替えも一瞬。捕手を始めて1年未満でこれだから、努力と才能の程もうかがえる。
8盗塁のうち半分が三盗で、相手に大きなダメージを与えつつ、味方を奮い立たせた。中・高とカテゴリーが上がるほど走りにくくなるが、またことごとく常識を覆してくれるかもしれない。
―Golden egg❸―
速球も大好物のスラッガー
おばら・かいと小原快斗
[東京・不動パイレーツ]6年/右投右打/遊撃手
怪物が新たな怪物を生んだのかもしれない。今大会最多タイ3本塁打の小原快斗については「2023注目戦士」で既報している(→こちら)。
「いつもの練習通り、低いライナーを意識していきたい」と乗り込んだ全国舞台での、ここまでの飛躍は本人も予期できなかったかもしれない。が、資質と可能性は東京予選から垣間見せていた。
6月のレッドサンズとの決勝で、最速124㎞左腕の藤森一生から3打数3安打。120㎞を右越え三塁打、118㎞を右前打、116㎞を左前打と文句なしに打ち勝った。さらに7月の都知事杯決勝(敗戦)では、第1打席でバント安打(犠打の結果)に第3打席で左前打と、打率10割で怪物左腕の天敵に(第2打席は別投手からサク越えソロ)。
小原vs.藤森――数年後の甲子園や10年後のプロ野球でも名勝負になっているかもしれない。
―Golden egg➍―
「大阪桐蔭みたい」
よねざわ・とむ米澤翔夢
[福井・越前ニューヒーローズ]6年/右投右打/三塁手
昨夏は神宮で満塁アーチを放っていた右の大砲。1年で体もグンと成長し、そのたくましい姿に記者席やスタンドから「大阪桐蔭(高校の選手)みたい」といった声が複数聞かれた。
容姿だけではない。バットからも本家のような快音を響かせた。ハイライトは1回戦だ。一気に6失点で10点ビハインドとなった直後の5回裏、左翼へ高々と舞い上がる2ラン。さらに同イニング2回目の打席で二死満塁から左へ2点タイムリー、これで一挙8得点で同点とした(最終的にサヨナラ勝ち)。
チームは3回戦で敗退も、6回裏に大会2本目のサク越え弾。このままの迫力に加えて守備も磨かれていくと、やがては西の都の名門校からもアプローチがあるかもしれない。
―Golden egg❺―
果敢な投打二刀流
もりおか・ゆうと森岡雄飛
[兵庫・北ナニワハヤテタイガース]6年/右投右打/投手
最速で100㎞を少し超える。全身を使って投げ込むフォームがダイナミックで、球にキレがあった。1回戦は6回一死まで被安打1で、失点と四死球がゼロという完ぺきに近い内容で初戦突破の原動力となった。
2回戦は東京・レッドサンズの強力打線に4回からつかまったが、3回までは長打や味方のミスがあっても無失点と粘投。打っては藤森一生の120㎞を中前へきれいに弾き返し、塁に出れば二盗、三盗(2個)と八面六臂の活躍だった。
―Golden egg❻―
3試合で2発8打点
やまぐち・ひろ山口陽大
[長崎・波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ]6年/右投右打/投手
6回裏の二死二塁で救援直後、逆転サヨナラ2ランを浴びると大地に突っ伏して号泣。3回戦は悲劇の幕切れだったが、野球人生はまだこれから。3試合で2本塁打の8打点に打率5割と、四番打者として堂々たる成績も携えて、大きく強く飛躍してくれることだろう。立ち上がれ、山口!
―Golden egg ❼―
投打でインパクト
こやま・とあ小山翔空
[長野・野沢浅間キングス]6年/右投右打/投手
全国大会初打席で右中間へ先制の三塁打を放つと、投げては4回まで1安打無失点とゲームメイク。2回戦は二番手がつかまり逆転負けも、一時勝ち越しとなる逆転2ランを逆方向へ。全国出場実績のある名門チーム同士が合併して1年目。エースで四番の初代主将が、夏の夢舞台で確かなツメ跡を残した。
―Golden egg❽―
火付けの先制3ラン
さかい・しょうた境 翔太
[愛知・北名古屋ドリームス]6年/右投右打/遊撃手
よもやの2回戦敗退。準Vの実績もある名門チームの早すぎる終戦となったが、幼児野球から中心的存在だった主将が全国でも打線に火をつけた。ナイターとなった1回戦の3回裏にレフトへ高々と舞い上がるサク越えの先制3ラン(上写真)。その後もタイムリーの長短打3本で計7打点の打率6割超。2回戦で最後の打者となったことも、今後の糧になることだろう。
―Golden egg❾―
手勢13人の大黒柱
ひのもと・れんと日本廉人
[香川・丸亀城東少年野球クラブ]6年/右投右打/捕手
1年生の俵上竜己を入れても13人。今大会最少の手勢だった香川の王者を、一番・捕手として3回戦まで引っ張った。3試合連続で2安打、第1打席で必ず出塁した。3回戦は3回までに大量11失点も、3回裏に先頭で左前打を放ち、3得点の反撃につなげた。強敵や劣勢でも食らいつく姿勢は、遊撃を守った弟の3年生・賢伸らが継承してくれるはずだ。
―Golden egg❿―
マドンナに王者も冷や汗
やまもと・まなは山本愛葉
[石川・館野学童野球クラブ]6年/左投左打/投手
マドンナ左腕の真骨頂は、数字では見えないところにあった。内外のコーナーを丹念に突きながら打者を早々に追い込み、ボール気味の勝負球で打たせて取る。初戦の3回に、不運な内野安打に野選や失策も絡んでの6失点で降板。しかし、優勝することになる新家スターズ(大阪)を2回まで0点に封じ、千代松剛史監督も「あの女の子、噂以上のすごいコントロールやったわ!」と絶賛した。
―Golden egg⓫―
大逆転勝利を決めた三番
なかはし・かいじ中橋開地
[福井・越前ニューヒーローズ]6年/右投左打/投手
ミートした白球が哀しいほどつぶれる。昨夏は3回戦で逆転決勝3ラン。「10本打ちたい」と乗り込んだ今夏はノーアーチも、ただならぬ存在感だった。特に試合終盤から最大8点差をひっくり返した1回戦だ。左中間へのエンタイトル二塁打で猛追の1点目を稼ぐと、特別延長の6回裏に12対12に追いついてなお二死満塁で打席へ。振り込んできたバットで手柄を立てたい場面で、ボール球を冷静に見極めての押し出し四球で、サヨナラ勝ちにつなげた。
―Golden egg⓬―
効いた一発、打てる捕手
おだぎり・かんた小田切敢太
[山梨・甲斐ジュニアベースボールクラブ]
6年/右投右打/捕手
大会初戦となった2回戦は七番・捕手で出場。いきなりレフトへ2ランなど3打点の活躍で、強豪・北名古屋ドリームス撃破に貢献した。続く3回戦は四番に抜擢されるも、無安打で1打点。準々決勝はまた七番となり、チームは4安打で完封負けしたが、左前打から二盗を決めた。返球を含めて投手陣をテンポ良くリードする、打てる捕手だった。
―Golden egg⓭―
横綱チームの片りん
おおぬま・るい大沼 旬
[福島・常磐軟式野球スポーツ少年団]6年/右投左打/投手
1回戦は適時二塁打を2本。2回戦も先発して5回4安打1失点の好投も、1回に喫した先制ソロが決勝点となって涙した。長い手足を器用に操り、投げ込む速球はキレがあった。また、2試合9イニングを通じて四死球ゼロと、抜群のコントロールはいかにも大会最多23回目出場の「横綱」のエースだった。元楽天の内田靖人(エイジェック)ら偉大なOBたちに続いて、ゆくゆくはプロの門を叩くことになるか。
―Golden egg⓮―
打も捕手もやはり一級品
むかい・けいしろう向 慶士郎
[石川・中条ブルーインパルス]6年/右投左打/捕手
昨夏Vに貢献した一番・捕手が、背番号10を引き継いで再び神宮へ。手の内も知り合う隣県チームに初戦で惜敗も、大会ベストゲームと呼べるような緊迫の戦いを演出した。マスクをかぶっては寺岡倫太朗を好リード。再三のバウンド投球も後逸せず、寺岡の完投(今大会2人のみ)を後押し。打っては特大のファウルに、逆方向へ二塁打を1本(上写真)。敗退後に報道陣の質問に落ち着いて答える横顔も、1年の成長を物語るようだった。
―Golden egg⓯―
真っ向勝負の好右腕
えぐち・はると江口晴彪
[佐賀・川副少年野球]6年/右投右打/投手
スピードガンの表示がされない球場の1回戦で敗退も、110㎞近くに達していたのではないかという速球と、整ったフォームが目を引いた。結果として3ランを浴びるなどしたが、名門チームの強力打線に真っ向勝負を挑み、けん制死や自らの好守で併殺も奪った。「全国のマウンドを楽しむことはできました」と、清々しい表情で九州への帰途に。